2024.9.23
取り組み・研究内容
都市と農村における住民の生産・消費・廃棄に着目し、両者をつなぐ物質循環を分析・検証します。
各地域の環境や経済、社会の状況に応じて、求められる物質循環のあり方は異なります。
各地域においても、グローバルな視点からも、
ともによい取り組みとなる物質循環システムの構築をめざします。
研究地域
日本
東南アジア
- ラオス
- マレーシア
アフリカ
- ニジェール
- ザンビア
- ガーナ
- ウガンダ
本プロジェクトでは、日本、東南アジア(ラオス、マレーシア)、アフリカ(ニジェール、ザンビア、ガーナ、ウガンダ)の全3地域を主な対象としています。バイオマスの物質循環の現状や循環システムの構築を検討するときには、4つの地域スケール①世帯や農村の耕作地(生産の単位)、②地域(市町村)(都市や流域単位)、③国家(輸出入の単位)、④グローバルを設定し、各レベルをあわせて考えていきます。
研究内容
大きく3つのテーマに分けて、研究に取り組んでいます。
かかる現状分析 2有機性ごみと土壌の関係を科学する有機性廃棄物の分解メカニズムの
解明と安全性の検証 3地域で実践し、循環を考えるバイオマス循環システムの構築にむけた
新しい価値観の創出と社会づくり
1いまを知るバイオマス資源の物質循環にかかる現状分析
1 - 1農業のいま
農業生態系における物質循環
メンバー阪本、小坂、土屋、牛久、桐越、原、中澤、中村、大山
研究地域日本、東南アジア、アフリカ
日本と東南アジア、アフリカにおける農業様式と耕地の生態系、および都市-農村間における農産物の流通を解明します。日本では水田稲作と畜産、東南アジアでは水田稲作と林業生産・森林、アフリカでは焼畑と農牧複合を主な対象としています。
各地域における農業様式や環境利用の実態、生業基盤の荒廃をふまえた上で、農家による消費形態を調査します。各地域スケールで展開する農産物の動きを把握するため、統計資料などをもとに流通システムと流通量を明らかにします。農村における施肥技術にも着目し、化学肥料や畜糞、コンポストなど資材利用の実態を分析します。有機性廃棄物に対する意識や価値観を明らかにし、バイオマス資源の循環を進めるブレークスルーを検討します。
1 - 2都市のごみ、し尿・下水の処理方法
都市における廃棄物の処理とバイオマス資源の集積
メンバー原田、阪本、矢部、土屋、小坂、國枝、中澤、大山
研究地域日本、東南アジア、アフリカ
3地域の都市において、廃棄物の排出と処理、衛生環境を調査します。し尿・下水と、そのほかの廃棄物に分けて、家庭における廃棄物の種類と重量、回収と処理方法について調べる予定です。
日本では東京や大阪、京都の中心市街地におけるディスポーザー(生ごみを砕き、下水道に流す装置)と下水処理の問題、生ごみや下水汚泥(下水処理後に残った汚泥)の処理方法に着目。分解を中心とする処理プロセスと、農業利用にむけた課題を明らかにします。
東南アジアやアフリカでは、ごみの分別はさほどおこなわれておらず、そのまま野積み(オープンダンピング)して埋め立てるのが主流です。その実態をふまえ、家庭ごみや下水汚泥といった有機性廃棄物の農業利用や、生業基盤の修復にむけた課題と方策を検討します。
1 - 3世界における栄養分の量と動きを、地図で可視化
農産物の輸出入をめぐる物質循環(バーチャル・ニュートリションの計算)
メンバー矢部、大山
研究地域世界196ヶ国
国連食糧農業機関(FAO)が集計する農産物の輸出入データ(FAOSTAT)などを利用し、世界196ヶ国を対象として、バーチャル・ニュートリション・マップ(VNP:仮想栄養地図)を作成します。これは、バーチャルウオーター(VW:輸入国が、輸入品を自国で作る場合にかかる水の推定量)の考え方を援用して、本プロジェクトが独自に作成するものです。世界196ヶ国における栄養分の移動収支を目で見て認識できるよう
- 輸入国は世界各地からどのくらいの栄養分(窒素とリン酸、カリウムなど)を集め、自国の国土に栄養分を集積しているのか
- 輸入国が農産物や木材を生産すると仮定したら、どのくらいの量の栄養分が必要なのか
という2種類の地図を作成する予定です。
2有機性ごみと土壌の関係を科学する有機性廃棄物の分解メカニズムの解明と安全性の検証
2 - 1緑化&作物生産の力
有機性廃棄物の施用による緑化および作物生産力の分析
メンバー中野、小坂、鈴木、原、大山
研究地域日本、東南アジア、アフリカ
日本の水田稲作や畑作地、東南アジアの水田稲作や林業生産地、アフリカの畑作地において、家庭ごみや木質系のごみ、下水汚泥といった有機性廃棄物を施用する圃場実験を実施します。これにより、土壌性状の変化や荒廃地における環境修復の効果、および作物収量の改善効果を検証します。
2 - 2分解のメカニズム
有機性廃棄物の分解メカニズムの評価・検証
メンバー鈴木、中野、中村、原、大山
研究地域日本、東南アジア、アフリカ
有機性廃棄物は耕地の土壌でどのように分解され、どのようにして植物が吸収できる形態になる(無機化する)のか。2-1の圃場実験にて、気象条件とあわせ、土壌の物理性と生物性、化学性に着目して明らかにします。
また、温室効果ガスの抑制効果はどれくらいあるのか。土壌面におけるCO2フラックス(単位時間に単位面積から大気中へ放出・吸収される二酸化炭素の量)を測定し、有機性廃棄物の投入と緑化にともなう二酸化炭素の排出/吸収の効果を検証します。土壌における炭素貯留量(土壌中の炭素は植物が大気から吸収した二酸化炭素に由来するため、これが多いとそのぶん大気中の二酸化炭素量が少ない、つまり抑制効果が高いことになる)も計測し、解明します。
2 - 3安全に利用するために
有機性廃棄物の農業利用をめぐる安全性の検証
メンバー原田、國枝、中村、鈴木、大山
研究地域日本、東南アジア、アフリカ
都市で排出される有機性廃棄物、とくに下水汚泥には、鉛やカドミウム、クロム、シアン、ニッケルなどの重金属が含まれている可能性があり、そうした(有害)物質の危険性に対する懸念は根強いものです。有機性廃棄物の利用には、科学的なアプローチで安全性を確保することーー有害物質の含有量を把握し、それに応じてリスクを避ける技術も必要です。
そこで、EDX(蛍光X線分析装置)による簡易検査システム、有害物質の除去および希釈の技術を開発します。有機性廃棄物の健康リスクを除去し、農業利用に対する住民の受容性の向上をめざします。
3地域で実験し、循環を考えるバイオマス循環システムの構築にむけた新しい価値観の創出と社会づくり
各地域において有機性廃棄物の利用にむけた実験を進め、それぞれの実情に沿ったマニュアルづくりに取り組みます。有機性廃棄物に対する「汚い、危険、有害」といった価値観の転換と有価値化を進めるため、研究成果と住民の合意形成をベースにします。分解を基盤とするバイオマス循環システムの構築に必要な社会条件、住民の意識変革、および社会インフラづくりにむけた提案を行います。
3 - 1コンポストの開発
ホテル・レストランの食品ごみを利用したコンポストの技術開発
メンバー大山、塩谷
研究地域日本:京都
京都市内の大型ホテル・ウェスティン都ホテル京都の協力を受け、レストランの食品ごみを材料に、独自のコンポストの開発に取り組んでいます。めざすのは「手に入りやすい身近な資材を使い、だれでも楽しく簡単にできて、においなし。自然のプロセスですばやくごみを処理し、土壌に栄養分を戻す」コンポスト。ごみが処理される際の化学性や生物性などに着目し、データを取りながら開発を進めています。このコンポストでできた堆肥を農地で使うことや、コンポストの量産も計画しています。
世界的にみても、京都は有数の観光都市です。国内はもとより、海外からも多くの旅行者が訪れています。京都市内にはホテルや旅館、レストランや料亭なども多くあり、人びとが食事を楽しんでいます。そこで大量にうまれるのが、食品ごみです。
本プロジェクトでは、2023年から市内の大型ホテル・ウェスティン都ホテル京都の協力を得て、館内のレストランで調理の際に出る端材(未加熱)、レストランの食べ残し(加熱済)といった食品ごみを材料として、独自のコンポストの開発に取り組んでいます。
コンポストとは、有機性ごみを農業に使用したり、土壌に戻したりすること。微生物が関与し、発酵を進め、有機物を分解するしくみです。めざすのは「手に入りやすい身近な資材を使い、だれでも楽しく簡単にできて、においなし。自然のプロセスですばやくごみを処理し、土壌に栄養分を戻す」コンポスト。食品ごみをコンポストにするときに、どのような変化が起きるのか、化学性や物理性、生物性、そして発酵熱の発生に着目してデータを蓄積しています。
コンポストで堆肥ができあがったら、農地で使用することを計画しています。ゆくゆくは、コンポストの量産もめざしています。
連携先の募集
プロジェクトでは、さまざまな企業・団体の方との連携を広げていきたいと考えています。
京都市とその近辺で、有機性ごみの活用方法を検討されている企業・団体の方がた、ご連絡ください。
3 - 2動物うんちを利用した堆肥
京都市動物園で飼育されている動物のうんちを利用した堆肥の商品開発
メンバー大山、塩谷、齋藤、山梨
研究地域日本:京都
京都市動物園の協力のもと、アジアゾウなど全9種の動物うんちを譲り受けてコンポストを作っています。動物うんちによって有機性ごみを効率的に分解できるほか、産業廃棄物として処理されることの多い動物うんちを有効活用につなげる意味もあります。このコンポストにもウェスティン都ホテル京都の食品ごみを利用し、処理具合を調査・分析。各動物によってできる堆肥の特徴、利用に適した作物を明らかにします。将来的には動物うんちを使った堆肥の商品開発や、環境教育での利用も計画しています。
2023年から京都市動物園の協力を得て、動物うんちを譲り受け、コンポストづくりをしています。
京都市動物園で生活する動物たちは日々、えさを食べて、うんちをしています。コンポストに動物うんちを使うと、有機性ごみを効率的に分解することが可能に。動物うんちの多くは産業廃棄物として処理されているという現状があり、コンポストによる堆肥化は、有効活用につなげる意味もあります。
現在使用している動物うんちは、アジアゾウ、シマウマ、キリン、トラ、チンパンジー、ゴリラ、マンドリル、カバ、ヒトユビナマケモノの全9種。材料はほかに、ウェスティン都ホテル京都のレストランから譲り受けた食品ごみ(未加熱、加熱済)を使っています。
動物たちは肉、草、果実などと、それぞれ食べるものがちがいます。うんちの量やかたさ、におい、繊維の量などもさまざま。動物によって、できるコンポストに違いはあるのか。コンポストづくりをしながら調査・分析し、それぞれどのような作物の栽培に適しているのかを明らかにします。将来的には、動物うんちを使用した堆肥の商品を開発する予定です。そのほか、来園者へ環境教育の題材として提供することも計画しています。
3 - 3小学校における総合的な学習
京都府内小学校における総合的な学習の授業提供と授業のマニュアルづくり
メンバー大山、塩谷
研究地域日本:京都
総合地球環境学研究所と京都府教育委員会との連携事業として、京都府下の小学校において総合的な学習(探求)の時間にコンポストの授業を行っています。2023年度には、5年生の3クラスで実施。給食の調理時に出た端材や各教室での食べ残しを使って一緒にコンポストを作り、観察・記録を続けました。今後も事業を継続し、授業のマニュアルづくりを進めていきます。
総合地球環境学研究所と京都府教育委員会との連携事業として、京都府下の小学校において総合的な学習(探求)の時間にコンポストの授業をつづけています。
2023年度には、綴喜郡(つづきぐん)井手町の小学校2校で5年生3クラスを対象に授業をいたしました。毎週月曜日には、プロジェクトのメンバーがいっしょに作業をし、解説を行いました。
この授業では、給食を作るときに出る野菜の端材(未加熱、加熱済)、各教室で食べられなかった残飯(加熱済)などを材料にして、食品ごみの栄養分を土壌に戻すコンポストづくりをしています。授業中には、気温とコンポストの資材内部の温度を計測。スコップで資材をかきまぜつつ、入れた食品ごみのうち、なにが残っていて、なにが消えたのか。みなで観察をし、記録を続けました。
2024年度も同事業を継続する予定であり、今後は授業のマニュアルづくりも進めていきます。
3 - 4ごみによる砂漠の緑化
ニジェールのニアメ首都圏における有機性ごみによる緑化活動
メンバー大山
研究地域アフリカ ニジェール:ニアメ
西アフリカのサヘル地域に位置するニジェールにて、都市の有機性ごみによる農村の緑化を行っています。都市のごみを農村の砂漠化が進む地域にまくと、ごみが砂を受け止め、ごみの養分や生物の働きによって植物が生育するようになります。それを放牧地として牧畜民に利用してもらい、家畜のふんを落とすことでさらに樹木や作物を育てる取り組みを進めています。こうして農耕民と牧畜民の土地をめぐる争いを防ぎ、平和な社会づくりをめざしています。
ニジェール共和国は、サハラ砂漠南縁のサヘル地域に位置します。サヘル地域では、人口の増加にともなって耕作地と家畜頭数が増えた影響で表土が流され、土地がやせています。風が吹くと地表面の土壌が飛び、雨が降れば土壌が流されます。こうして固い岩盤が露出し、植物が生育しない土地が広がります。
プロジェクト・リーダーの大山修一(総合地球環境学研究所)は2003年よりニジェールの荒廃地で、有機性ごみをつかった緑化活動をつづけています。2021年からは、JICA草の根技術協力プロジェクトを開始しています。
ニジェールの首都ニアメでは、急速な人口増加による都市のごみ問題が深刻で、毎日1000トンのごみが出ます。ほぼ家庭から出されるごみであり、そのうち8割は砂と有機物です。砂は季節風によって飛ばされてくるもので、家のなかにも入り込んできます。有機物は、敷地に生育する樹木を剪定した枝葉、飼育している家畜(ヒツジやヤギ)の食べ残しや糞尿、寝床につかっていたわら、野菜くずといった生ごみなど。いずれも、植物の生育に必要な栄養が含まれています。
都市部のごみを農村部の砂漠化が進行している地域にまくと、ごみが強風でとばされてくる砂を受け止め、ごみの養分や生物の働きなどによって植物が育ち、荒れた土地の緑化が進められます。さらに、ごみからできた草地をフルベやトゥアレグの牧畜民に放牧地として利用してもらい、家畜の糞を落とすことで土地を豊かにし、樹木や農作物を育てる取り組みを進めています。
本プロジェクトでは、エネルギーや資材などをなるべく使わず、自然のプロセスを用い、現地の人びとのニーズや価値観を尊重しながら、ごみ問題の改善や農村における食料の増産を試みています。そして農耕民と牧畜民のあいだの土地をめぐる紛争を防止し、平和な社会づくりをめざしています。
3 - 5有機性残渣を利用した養豚と土壌改良剤
ザンビアの首都ルサカにおける有機性残渣を利用した養豚と土壌改良剤づくり
メンバー大山、塩谷
研究地域アフリカ ザンビア:ルサカ
アフリカ中南部の内陸国ザンビアでは、1980年代から化学肥料を用いてメイズ(トウモロコシ)を連作しており、深刻な土壌荒廃が広範囲で起きています。薪炭材の採取によるミオンボ林の荒廃も進み、保全や再生が求められています。メイズを利用する際に取り除かれ、有機性ごみとして多く排出される種皮部分と、ビールや醸造酒の生産による大量の残渣を用いて養豚を行う予定です。その糞と、都市のレストランなどからの食品ごみを使い、荒廃地用の土壌改良剤を作る実験を計画しています。
ザンビア共和国は、アフリカ大陸の中南部に位置する内陸国です。2022年における首都ルサカの人口は約308万人であり、年2.9%の割合で増えつづけています。
ザンビアでは1980年代から政府の補助によって化学肥料が安価に供給され、農家はそれを使用してメイズ(トウモロコシ)を栽培してきました。長年にわたる化学肥料の投入とメイズの連作によって、作物栽培の困難な農地が国内に広く分布しています。また、薪炭材の採取により天然のミオンボ林の荒廃も進んでおり、その保全と再生も緊急の課題となっています。
メイズは種皮を取り除いて利用するので、多くの種皮が有機性ごみとして排出されています。ビールや醸造酒の生産による大量の残渣もあり、これらを用いて養豚を行う予定です。
ザンビアには首都ルサカだけではなく、ンドラやキトウェといったコッパーベルト州(産銅地帯)の都市も存在し、多くの人びとが居住しています。食品加工業者やスーパーマーケット、レストラン、ホテルなども、大量の廃棄物を出しています。これらの都市で出される食品ごみと、養豚で出たうんちを利用し、荒廃地用の土壌改良材をつくる実験を計画しています。
3 - 6 国内における講演活動・実演
メンバー大山
研究地域日本
本プロジェクトでは日々の生活のなかで、環境問題に取り組んでいきたいと考えています。その具体的な方法として、有機性廃棄物の問題をあつかっています。おもに日本では生ごみの減量化、アフリカや東南アジアでは生ごみによる環境修復、自然再生に力点を置いて活動しています。
そんなわたしたちの研究や社会貢献の経験をみなさんに知っていただくため、総合地球環境学研究所でのイベント、各地における講演会、環境フェスティバル、大学での企画展、高校や小学校での講演ほか、映画祭でトークをしたりすることもあります。各種イベントでは、開発中のコンポストの実物を展示しています。
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