プロジェクト概要

自然から得たものは自然にもどす

都市に集中する人、もの、ごみ。一方ほかの地域では、森林破壊や砂漠化、農地の荒廃などが進んでいます。都市に多く蓄積する生ごみやうんちといった有機性ごみは、元をたどると自然から得たものです。これを自然にもどすことで、環境修復や自然再生、農業生産の改善へつなげるにはーー日本と東南アジア、アフリカの都市と農村における生産・消費・廃棄や有機性ごみの実態を調査し、科学的知見からも検討。地域の人びととともに有機性ごみに対する新たな価値観をつくり、都市のごみを自然にもどして生かす「バイオマス循環システム」を構築します。都市と農村をめぐるごみにより、いのちをつなげるプロジェクトです。

プロジェクトの背景

都市に蓄積するごみ、荒れる土地、どうする資源

世界各地で人口が都市に集中し、巨大都市が多く誕生しています。そこには物資やエネルギーが集まり、生産と消費が繰り返され、大量の廃棄物が蓄積しています。一方で熱帯域を中心に、人口増加と経済発展にともなう森林の破壊や乱開発、砂漠化が進行しているところも。農牧業による土地の酷使や土壌侵食もあり、地域によって資源や栄養分の偏在がみられるのが現状です。

また、気候変動や各地で多発する異常気象と関連し、世界各国では二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出/吸収の収支をゼロとするカーボンニュートラル社会への移行が求められています。しかし、食料やエネルギー、資源開発、経済成長などの問題が複雑に絡み、その対応は容易ではありません。戦争や世界の分断といった政治問題、為替の急激な変動、物価上昇やインフレーション、不安定な電力供給……。こうした世界的な動向のもと、省資源・省エネルギーの技術開発が求められるようになり、従来まったく資源とみなされてこなかったものにスポットライトが当てられています。

ごみやうんちーー本プロジェクトが注目するバイオマス廃棄物も、そのひとつです。

研究の目的

ごみやうんちは無用で汚い、もの?

バイオマスとは、生物に由来する物質のこと。人が価値を見出すと、資源になります。バイオマス資源は、たとえば原料や燃料になる作物など。それらを利用したあとに、捨てられたものがバイオマス廃棄物です。私たちが毎日出している生ごみやうんちなども、これにあたります。

廃棄物を重さでみた場合、高い割合を占めるのが有機性ごみです。これは生物に由来するバイオマスであり、多くのミネラルや栄養分を含んでいます。しかし、無用なものという認識のまま処分されることがほとんど。農地や自然界に戻して生かされる割合はきわめて低い、という状況にあります。

人が口にする食料は清潔であることが必要で、廃棄物やし尿は、汚れとして忌み嫌われます。しかし、生き物のいるところに、ごみやうんちはうまれるものです。都市を中心とする文明が今後も持続していくためには、人は清潔から汚れを生み出すものであると受け入れること、その汚れから清潔を生みだす物質循環と生命の生まれ変わりの重要性を理解すること、地球のシステムから分離した人類の存在を、そのシステム内に位置づける思考・価値観への転換が必要です。

大量に生産・消費・廃棄
そして燃やす、より…

人類は地球上で化学肥料を使って大量の農・畜産物を生産しています。食べ物に限らず、石油や石炭、天然ガスのほか鉄鉱石や銅、レア・アースなどの鉱物資源を使った工業製品なども多く製造しています。いずれも大量に消費すると同時に、大量の廃棄物を発生させています。

環境省の資料によると、日本において2021年度に排出されたごみは4095万トンであり、うち3942万トンが処理にまわされました。そのなかでリサイクルされたのは189万トン(4.8%)、そのまま最終処分場に運ばれたのは34万トン(0.9%)。残りの3719万トン(94.3%)は中間処理で、多くは焼却処分されています。

2021年度における国内のごみ総排出量

家庭から出される有機性ごみのうち、大部分を占めているのが生ごみです。水分を多く含んでいるため燃えにくく、わざわざ石油をふきかけて強制的に焼却しているのが実情です。残った灰はさらに1400℃という高温で溶かし、病原菌やウイルスを殺し、体積を減らします。こうして、埋め立てを中心とする最終処分場の不足に対応していると説明されます。

日本の大都市は東京、横浜、大阪、名古屋など、海岸に位置します。溶融後の灰は海岸部の埋め立てに使われることが多く、そこに高層マンションやテーマパーク、イベント会場などが建設されることも。海岸部の開発によって人びとが集まり、経済が活発化することで新しい土地に価値がうまれ、自治体にとっては税収を得ることができるというメリットもあります。経済的にはよいのかもしれません。しかし、生ごみやうんちなどの有機性ごみーーミネラルや栄養分の宝庫であるバイオマス資源を燃やして埋め立てるよりも、エネルギーをかけず、自然に戻して生かすことを考えていきたいと思っています。

※令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書

都市と農村のあいだの
バイオマス循環システムを構築

本プロジェクトでは日本と東南アジア、アフリカにおける都市を中心とした物質移動の諸相を調べ、蓄積する有機性ごみやし尿処理の問題に焦点を当てていきます。

一方で起きている森林破壊や砂漠化、農地の荒廃といった問題への対応として、都市と農村をめぐる物質循環に着目。都市に蓄積した有機性ごみを荒れた土地へ戻し、エネルギーや資材は最小限に、自然のプロセスを用いて環境修復や自然再生、食料増産を進める「バイオマス循環システム」の構築をめざします。

各地域にはそれぞれの生活があり、有機性ごみの内容や価値観、求められる循環システムもさまざまです。各地域の実態をふまえ、尊重しながら、有機性ごみに対する価値観の転換と新しい社会のしくみづくりを促進していきます。ごみを用いて荒れた土地を改善することは、土地や資源をめぐる争いの防止にも結びつくことです。平和な社会の実現を通じて、笑顔ある未来につなげられるよう願っています。

代表挨拶

わたしたち、一人ひとりができることを

地球上の人口は増えつづけ、世界各地に巨大都市が誕生し、新しい技術・製品によって使用するエネルギー・資源の量は増えつづけています。人類は効率よく、豊かな生活を求め、さまざまな技術を生み出し、発展をつづけてきました。その発展のなかで、環境問題が深刻となっています。

環境問題の内容は大気汚染や水質汚濁、海洋汚染、地球温暖化、森林破壊、砂漠化、水問題、生物多様性の危機など、多岐にわたります。一人ひとりの生み出す負荷量は小さくても、累積すると、巨大な影響力を生み出してしまいます。

これまで科学や報道は、環境問題の深刻さを明らかにしてきました。アマゾンの熱帯林の減少、ヨーロッパに降り注ぐ酸性雨によって枯れる樹木、アフリカの干ばつや砂漠化、日本列島への黄砂の飛来、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの増加、そして平均気温の上昇などなど。

こうしたデータや映像を目にして、わたしたちが市民として、日々の生活のなかでできることはないのでしょうか。このプロジェクトでは、日々の生活や経済活動で出てくる有機性ごみ(生ごみ)を、いかに農地や自然に戻すのかということをテーマにしています。

わたしたちが手にし、口にする食べ物は、土壌の栄養分、太陽の光、雨水という自然の恵みで育ったものです。われわれは、その食べ物を消費する結果、生み出される生ごみをどのように農地や森林、草原の土壌に戻すのかということを考え、実践することに取り組んでいます。

5年間で、どのような社会の仕組みや考え方をつくることができるのか、先を見通せないところがあるのですが、だからこそ、前むきに、真剣に取り組み、やりがいがあると考えています。成果は研究者コミュニティだけではなく、積極的に社会に対して発信していきます。どのような成果が出てくるのか、ご期待ください。

大山 修一Shuichi Oyama

総合地球環境学研究所教授
京都⼤学⼤学院アジア・アフリカ地域研究研究科/
アフリカ地域研究資料センター・教授

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本プロジェクトは、人びとの生活に密着して進めていくものです。
人と人のつながりを大切に、さまざまな方々との連携を広げていきたいと考えています。

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